こんにちは。六原です。前回、碁盤の目といわれる京都の中心部を、斜めに貫く後院通について調べました。それを踏まえ今回は、後院通が斜めとなった経緯と、その理由について、2つの説をご紹介させていただきます。
まだ、前回の記事をご覧になっていらっしゃらない方は、
こちらからどうぞ。
軽く前回の復習をしておきましょう。後院通には以下のような不思議なポイントがありました。
- 碁盤の目の京都で斜め
- 千本通、後院通、大宮通で一本道に見える
- 錆びついたポール
さらに、周りには以下のようなものがございました。
復習はこんなところにして、さっそく斜めとなった経緯を説明させていただきましょう!
斜めとなった経緯
結論から述べますと、斜めになった理由は、千本三条から四条大宮へと京都市電の路線が敷設されたからであります。周辺の歴史を解説させていただきましょう。
1899年(明治31年)まで、京都市は自治権を持っておらず、京都府がそれまで様々な事業を管理、運営しておりました。琵琶湖疏水など、京都の有名な産業遺産も元は京都府によってなされたものでありました。やっと自治権を得た京都市でありましたが、水質汚染や、電力不足、都市整備など、課題は山積みでした。
そこで、京都市第二市長の西郷菊次郎は、「第二疎水開削」、「上水道整備」、「道路拡築」を三本柱とする「京都市三大事業」を打ち立てました。京都市電は、この「道路拡築」、正確には「道路擴築竝電氣鐵道敷設事業」の一環として設立されました。
それによって、1907年には、七条線、四条線、丸太町線、今出川線。東山線、烏丸線、千本大宮線の7路線が開通するということが決定し、1912年には、京都市営電気鉄道とともに、烏丸線、千本大宮線、四条線、丸太町線の四路線が開業しました。千本大宮線は、正確には千本線と大宮線を後院通でつなげた路線でありますが、昭和初期までこの名称で呼ばれていました。開業当時は、現在の中京警察署が位置する後院通の壬生車庫前駅からその北、千本丸太町駅までの開業でしたが、数カ月後には四条大宮まで延伸されました。
他の3路線も、1912年内に開業されました。(下の画像は、赤→青→緑→紫の順番に1912年に開業した京都市電七路線です。)路線の命名は、通り名に基づいてなされました。
1912年の京都市電
出典:Google Mapsに基づいて作成
現在の地図と合わせた、1912年当時の京都市電路線
京都市電は、路線工事において、標準軌(広軌)をとったため、道路を拡幅する必要がありました。このことが、千本通、後院通、大宮通の一本線が他よりも道幅が広くなっていた理由です。
しかし、なぜわざわざ、千本通と大宮通で路線を分けたのでしょうか。どちらか一方を南北に伸ばせばよかったはずです。わざわざ二路線も作る必要はあったのでしょうか。
千本大宮線決定の経緯には2つの説があります。今回はそのうちの一つをご紹介します。(もう一つは次回!)
説1: 材木商による反発
1つ目の説は、西高瀬川一帯で商業を展開していた材木商による反発があったというものです。
西高瀬川は江戸時代、京都の豪商、角倉了以が、京都市北側の丹波地方と京都の水運を確立するために開削された大堰川に運ばれた木材などを京都へ運ぶ運河として開通されました。
嵐山から京都まで材木を
出典:Google Mapsに基づいて作成
今では、1935年の京都大水害を契機に、水量が減少し、さらに以前よりも掘り下げられておりますが、千本大宮線開業当時には、たしかに千本通を挟む形で、千本三条の周りに材木商が軒を連ねておりました。
ここで京都市電の路線は標準軌であるために、道路の拡幅が必要であったことを思い出しましょう。これが西高瀬川付近の千本通で行われると、材木商は商売仲間のお向かいさんとの距離が遠くなることになり、材木業者の分断が懸念されます。
これが材木店の反感を買い、京都市が千本通に鉄道路線を通すというわけにもいかず、やむなく、後院通を通して、千本三条からの南進を回避したというわけです。
現在の西高瀬川(奥に見えるのは立命館大学朱雀キャンパス)
「材木商の反発」説の評価
一見すると、筋の通っている説のように感じられますが、実はこの説はあまり有力ではありません。実は、公式に材木商による反発があったという記録は残っていないのです。
それに、当時の「三大事業」の一環としての行政の権力を考えれば、千本三条一帯材木商程度、というと失礼ですが、多少の反発はうまく懐柔させることができたはずです。もちろん、当時の材木商が商人として大きな力を持っていたことを踏まえても、です。
もちろん、時代的に鉄道バッシングが盛んであったということも忘れてはなりません。材木商の関わりに関係なく、批判や反発はあったとは思います。
ということで次回は、もう少し有力で筆者も推している第二の説をご紹介させていただきます。思ったよりも長くなり、結構、大変ですが、内容が濃いと実感できて嬉しいです。